しばらく前から利用するようになった写真店では中古カメラも扱っていますが、その中に愛用していた Nikon F3 がありました。





愛用していたのは発売('80年)されてしばらくして購入した初期のモデルですが、プロ用モデルに続いて HP(ハイアイポイント)モデルが発売('82年)されました。


見た目の違いはファインダーの前面に HP の文字があるかどうかです。







ハイアイポイントモデルはファインダーから少し目を離しても前面が見えるように設計されています。

多分眼鏡をかけた人に配慮したものでしょう。


そのためファインダーの高さが増しています。





操作系などは同じです。





底面も同じです。





デザインはジウジアーロ。

当初この赤いラインが横に入るプランだったようですが、最終案で縦になりました。









左に見える黒い窓のようなものはセルフタイマーを使った時に発光(点滅)する部分です。





F3 は巻き上げとシャッターの感触が抜群に良かったですね。

手に取ってシャッターを切ってその感触に魅了されて購入を決めました。

分割巻上のフィーリングも優れています。

当時 181千円でした。消費税はありませんでした。





スピードライトの取付部は特殊な形状で、一般のストロボなどを取り付けたい場合はここにオプションのホットシューを取り付けます。

この形状はしっかり取り付けられて良いのですが、フィルムを巻き戻すときはスピードライトを取り外さなければならず、モータードライブで巻き戻す時は巻戻ノブが回っているのが確認できないとして不評だったようです。


F3 P(プロフェッショナル)はファインダーの上に普通の形状のホットシューが設けられていました。

ハイアイポイントだったようで、HP 発売までに Limited などというモデルもありました。





これは愛用していた F3 のスクリーンですが、P型 に交換しています。

中央が斜めのスプリットイメージ、その周囲はマイクロプリズムです。


これがピントが合った状態。





これが合っていない状態です。

斜めなので縦線にも横線にも合わせやすいです。





こういうスクリーンです。





これは今回購入した F3 HP についているもので、全面マットです。





ガラスのプリズムが入っているので重いです。

安価なカメラはプリズムを使わずに鏡を使う場合があります。









裏蓋も交換しています。

右の HP が元々の裏蓋ですが、F3 はデータバックをつけています。





ここにフィルムの箱を切り取って入れておくことができます。





データバックは別に電池が必要です。





ピントを縦線に合わせた様子がこちら。





合っていないと、こうです。











マイクロプリズムなどはレンズが暗いと見辛くなるという問題があります。

全面マットだとそういうことはありません。





裏蓋を開けたところです。

下部にデータバック用の接点があります。





データバック側です。





これらのボタンで設定します。





フィルム感度はここで合わせます。

裏蓋を開ける時はこのノブを持ち上げますが、純正のスピードライトが取り付けられていると持ち上げることができないのでその点は面倒です。





フィルム感度を設定するときはギザギザのついた部分を持ち上げて回します。





これが露出補正。


追記。

露出補正ダイヤルはフィルム感度設定と一体です。

マイナスに露出補正するのはフィルム感度を上げる、プラスに補正するのは感度を下げるのと同じことです。

説明の必要はないかもしれませんが、マイナスに補正する=暗くする というのは光が当たる時間を短くすることですから、フィルムの感度が高いものを使うのと同じことです。

感度が高いということは少ない光で同じだけの露出が得られるわけです。


今はあまり聞きませんが、「増感」「減感」という言葉が使われていました。

例えば ASA(ISO)400 のフィルムでもシャッタースピードが遅すぎるなどの場合に 4倍に増感(1600に)して撮影し、現像するときは感度 1600 のフィルムで撮影したのと同じ処理をするわけです。

お店に依頼するときはその旨必ず伝えます。

当然粒子は荒くなって画質は落ちますが、非常手段として、あるいはその粗さが欲しくて撮影するということが行われました。





ファインダーの左上に見えるのはアイピースシャッターのレバーです。







倒すとファインダーの中のシャッターが閉じて見えなくなります。

これは順光など背後が明るい場合でリモートケーブルを使ったりセルフタイマーを使ったりする場合、ファインダーから入った光が露出に影響することを防ぐためのものです。





こちらはシャッタースピード。

ダイヤルの左下に見えるマークはフィルムの位置を示しています。





シャッターボタンの向こうに見える小さなレバーが電源スイッチです。

これが ON にした状態です。

右上に見える勾玉のようなレバーは多重露光するときに使います。











このカニのハサミのようなパーツはこの時代(Aiニッコール)にはもう必要なかったのですが、旧機種などで絞りを連動させるための爪です。





これを取り外す改造がサポートされていました。

取り外して、短いビスで穴を埋めるというものです。







HP の文字の下に見えるのは絞り値を照らすための照明です。





赤いボタンがスイッチです。

押している間だけ照らします。





ファインダーを取り外したところですが、暗い場所などでこの数字が見にくいときに照らして読み取ることができます。





ファインダー側です。





電池蓋です。

実は電池を入れぱなしだったため固着しているので CRC 5-56 を塗布して開けようとしているところです。





ミラーアップの機構です。





ボタンを押し込んでレバーを倒します。





ミラーが下りている状態です。





少し上がった状態。





全部上がった状態です。

下に測光のための機構があります。

フィルムからの反射を測ります。





今回購入した F3 HP は機械式シャッター(1/80。ミラーアップの機構の下)以外は切れない状態ということで、ジャンク扱いで安価で売ってもらえました。

外観は底面のカバーも含めて悪くないんですが。


当初プロの間では電池がないと動かないようなカメラは使えないという評価でしたが、モータードライブ(MD-4。単三乾電池8本使用)を装着するとそこから電源が供給されるとのことでプロは大抵その組み合わせで使っていたようです。



追記。

コメントに書きました P や tochi さんがお使いだった Limitedの他に NASA 仕様のものが作られました。

一般に知られたのは F3 発売より後だったと思いますが、Nikon の HP によりますと F3 開発中に依頼があったとのことです。

長尺フィルムを装填できる仕様になっていました。

写真でよく見たのは「スモール」の方かもしれません。

詳しい構造はわかりませんが、HASSELBLAD などの中判カメラのようにマガジンが交換できる構造だったのかもしれません。



1978(昭和53)年の秋、NASA(アメリカ航空宇宙局)からスペースシャトルに搭載するカメラ製作の依頼があった。

NASAの要求は、250枚の写真が撮れ、撮影途中でもフィルム交換ができる自動露出カメラを1年半で完成させるというもの。ニコンは当時開発中であった「ニコンF3」をベースに、250枚撮りの「F3“ビッグカメラ”」と72枚撮りの「F3“スモールカメラ”」を1980年5月に納入。翌年、スペースシャトル「コロンビア号」に「F3“スモールカメラ”」が搭載された。


https://www.jp.nikon.com/company/corporate/history/



購入した HP のシャッターは当初(多分買い取った時)は切れたとのことで、基盤がダメなのではないかとのことでした。

基盤はカタログにも掲載されていましたが、フィルム状です。

これがダメだとなると多分修理はできないでしょう。

フィルム状の基盤を交換するという対応でしょうが、部品の供給はないので他の個体(何らかの原因で使えないもの)か部品を取るほかありません。


もうメーカーのリペアサービスの対応はとっくに終了しています。

どうしてもやるのであればどこかやってくれるところを探さなくてはなりません。

パーツが入手できなければ無理でしょうね。



これについていはまた改めて取り上げます。